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​2024 コレクション

NHKのサラメシより あたるしましょうご中島省吾

いろんなサラリーマンの昼食がある 外食お姉ちゃんとおばさん 高血圧だからと嫁の野菜中心の愛妻弁当のおっちゃん 高血圧だからだ、けど、未婚ハゲのカップラーメンデカ盛りのおっちゃん 卵好きだからということで、嫁の卵尽くし愛妻弁当の新人の兄ちゃん 好き嫌いも関係なく、未婚薄毛の自作でコメのみ入れてきて、百円のレトルトカレーかける新人の兄ちゃん 
馬鹿だからと、マザコン隠してお母さんの作った幕の内弁当、野菜魚肉均等だという新人のお兄ちゃん 天然でから揚げのみ食べる自作弁当の新人の太った姉ちゃん 天然でダイエットだと、野菜パック購入総菜一つの姉ちゃん 未婚だからとどん兵一つ昼飯のベテランのおっちゃん ヒルメシ、サラメシ、サラリーマンメシのお兄ちゃん、お姉ちゃんらのヒルメシ 私はこんなんごめんだ こんな差別ごめんだ

悠久の時の流れの中に 吉川悦子

安芸の宮島の大鳥居
覆っていた幕が取り外され
令和の大修理が
まもなく終わろうとしている

宮島を初めて訪れたのは
六,七才の頃
潮が引いた大鳥居の前で
父母と並んで写っている写真がある
小さかった私にとって
とてつもなく大きな大きな鳥居だった

今回は友とスケッチ旅行
潮が満ち大鳥居は海の中
夕日が空と海を朱色に染めていた
翌朝潮が引き
砂の上にどっしりと立つ大鳥居
そばに立つとやっぱりとてつもなく大きい
感心する私たちの前を
三頭の鹿が悠々と横切っていく

海に浮かぶ厳島神社の後ろには
大きな岩が屹立する信仰の山
弥山がそびえ立つ
空海が開祖といわれ
多くの寺院が山腹に建てられ
登るにつれ真っ赤な紅葉が山を覆う
頂上からは真っ青な瀬戸内の海

その海に浮かぶ小さな島々が
私に語りかけてくる
昔から神の島と崇められ

平清盛が神社を造営して千年余り
これまでもこれからも繰り返される
潮の満ち引き
これからも続いていく
悠久の時の流れ
その小さな一点に
私が存在しているにすぎないことを

時の水音 小松原恵子

周りが見えなくなるような
うすい霧の中
水音だけ

あふれ
ぶつかり
しずかに

どこから来て
どこへ行くの
わたしに問うように

あふれ
ぶつかり
しずかに

時の鼓動をうちながら
わたしの鼓動とつながっていく

愛される理由 河合真規子

曼珠紗華は 天上の世界から
自らすすんで
この現世に降りてきたのかもしれない

曼珠紗華は 野辺の石地蔵のように
野辺に咲く彼岸花になった
  
彼岸花の朱は
雨にもとけ込み 雨にも映える 
優しい朱
稲穂が色づく頃になると
その畦道に その土手に
かがり火 灯してくれる花
  
花々は 人間のように 面倒くさくない
一面に咲いていても 絡み合ってはいない
花々は 嫉妬などしない
誇りもしない
誰かが邪魔をしない限り
それぞれが 譲り合うように咲いている

花々は 
根付いた場所で 精一杯に咲いている

樹海の魔法 宮崎陽子

西湖が見え隠れする森への道は
光りが道先案内人
影は傍らを歩む

陥没した溶岩は
這い上がろうともがくツキノワグマ
ガスが吹き出した口は
食用蛙
根っこごとひっくり返って
倒木は
厚さ15センチの壁
猿や蛙や恐竜は
苔になりすます

樹海は原始の森を繰り返し
旅人を誘いこむ
竜はカッと目を見開いて
邪な侵入者を懲らしめるのだ

なかよし 橋爪さち子

はるか四憶五千年ほどもの昔
ヒトの祖先が
サルやエイと袂を分かとうとした頃
かれらはすでに
有害なものをいち早く回避するために
苦味を鋭敏に知り分けたというが

それと同じほどの昔から
夫と私もまた
互いのにおいを知り分け 以来
幾万回もの生と死を一つ屋根に
繰りかえしてきた

そんなにも繰りかえさないと
辿りつけない赦しの光景に向かって
今日も
しゃりしゃり米を研いでいる      

そして 希望へ  たなかすみえ

          

序 井上良子

ダイヤモンドなら
3カラット フクシマの
3グラム 千年萬年

烏と海 吉田定一

カァカァー カァカァー
 カァー

鳴き声が 陰気に聞こえるのか
烏は 不幸な鳥とされている

鳴くと 人が亡くなる知らせとか
黒い羽根-容姿は 不吉や死の予兆のように

ひとに 忌み嫌がられて
賢いのに 愛されることがない

大きなホタテ貝の 貝殻のその傍で‥‥
烏は頭(こうべ)を垂れて嘆き 脳裏に想い浮かべる

海の喩としての貝殻から 誕生し
出現したように描かれている

ボッティチェッリの『ヴィーナスの誕生』
美と愛の女神アフロディテを-―

嘆き悲しむな 烏よ
おまえも海から生誕した 鳥の中の女神だ

命あるものの背後に広がる la mer
「海」という字に おまえが生んだ母がいる

カァカァー カァカァー
  カァー

ハローに乗って 永井ますみ

凍りついた地面がやっとほどけて
へばりついた冬草に緑が増している
ヒバリが高く舞いあがっている朝
お父ちゃんがハローに乗らんかという

格子状に組まれた太い木に
太い針を取りつけた農具
凍土を起こしたゴロゴロの畑の表土を均すのだ

わが家に一頭だけいた馬のハツが曳くハローに乗った
傾斜した畑を隆々と尻を動かしてハツが曳く
ぐねぐねと不安定に動く
生き物のようなハロー

お父ちゃん ちょっと怖い

落ちんやあに
しっかり持っとれよ
お前ぐらいの重さがかかると丁度ええだけぇ

ハローの荒い格子板に座り込んで
踏んばって
馬のおしりをみていると
わけの分からない歌が
湧いて出るようだった

昼頃には終わって
広々と整地された畑

お父ちゃん また乗る

あとは来年だな
来年には重くなりすぎとるかな
私はそっと父の肩に乗せられる

いつのまにか 戦争が停泊して

空から羽根を広げ 鶴が舞い下りた湾に
舞鶴軍港初代長官 海軍中将東郷平八郎が
日露戦争に備えてつくらせた
軍国日本の 日本海唯一の軍港は
近年 ミサイル防衛の最前線基地として
着々と 軍備増強が図られてきたが

湾の周りに「あたご」と「みょうこう」の一千四百億円と一千二百四十億の
二隻のイージス艦が珍しく
七隻の護衛艦 補給艦 掃海艇
高速ミサイル艇など 全部で十三隻が
係留され 湾岸を取り巻き 占拠しているが

戦争の日米同盟は 今 大変質が進んでいる
見えない地球の向こう ウクライナの戦争へ
ガザや ラファの犠牲者たちの
破滅し 飢餓が 虐殺へと
死の商人国家の欲望が 無限に続いては
地球の何処ででも 残酷な戦争を売りに出す
鶴の湾から 海の戦争の航路が幻視され
いつのまにか水深を深くして

名前を変えた戦艦が湾岸をとり囲んでしまい
平和な 美しい鶴の舞は いつ?

ヒナノガサ

精霊たちが目を覚ました
三々五々
連れ立って
何処かへ行こうとしている

もっと深い山
もっと静かなところ
誰にも知られない新天地へ

始めのない過去から
終りのない未来へ
人知れずつづく
自然のいとなみ

       写真 大石一史

十二月の日向 下前幸一

きみはひいらぎの眠りの中
唇は枯れ葉色に朽ちても

透明なガラスの花が咲く
瞬時咲き乱れて
静脈の紫に砕ける
きみの心臓を貫く
音のない警笛
複雑に壊れているきみは
アルミニウムの雨に濡れる
ささいな気がかりが
僕たちの足下で絶滅する

十二月の日向はくっきりと白く
はじくような白さだ
静かに血を流し僕たちは
その日向に沈んでいくのだ

森に抱かれて 森田好子

せせらぎにそっと足を浸す
昔 そのままの風が吹いている
よく来たね
森に抱かれる私がいる

ここは昔
子どもたちの遊び場
大人たちの洗濯場
探検家たちの憩いの場

岩陰に見え隠れする
魚 えび かに 赤亀
美しい翡翠色したカワセミ
やさしい声

忘れかけていた声がする
今 道は閉ざされ
訪ねるひとは もういない
森は悠久の時を刻み続けている

マスク 水谷有美

白いマスクは
モンシロチョウ
黒いマスクは
クロアゲハ
黄色いマスクは
モンキチョウ
青いマスクは
ベトナムの蝶

一年中 色とりどりのマスクが
人々の口元を隠すように
とまっている

一日の役割を果たしたマスクは
まるで 一日花のように
ゴミ箱に散っていく

道に捨てられたマスクは
死んだ蝶のようにも見える

マスクのおかげで
どれだけの命が守られたことだろう
もの言わぬマスクに
お礼を言わなければならない

マスクが
人々の口元を隠すことのない
世の中になる
その日まで
色とりどりのマスクの蝶は
静かに
人々の命を守っている

紫陽花の花 田島廣子

広大な丘陵地に咲いている紫陽花
ここは伊勢「かざはやの里」の花畑

可愛い花が寄り添うように咲いている
その花姿から 紫陽花の花言葉は
「家族団欒」「和気あいあい」

白い紫陽花の花言葉は
どの色にも染まっていない視像(イメージ)から
「寛容」「一途な愛情」

――私も白い紫陽花の花

ちなみに赤やピンク色の花言葉は
「元気な女性」「強い愛情」
女性らしい愛情の深さを色合いに感じる
母の日に贈る花として人気上昇とか

向こうの丘陵地一帯に咲いている
赤い紫陽花の坂道で
写真を撮ったり撮られたり

――今 私は赤い紫陽花の花
「早く撮って下さい」「私 満開 転びそうです」

空  内田縁

わたし
かなづちだけど
青い空は泳げるの

やわらかな風が吹いたら
赤い尾びれをゆらゆら

そして練習するわ
あの町に寄り添って
五月の空を泳ぎたいから

飛翔 南条ひろし

少年

夏空に

飛び立つ

蜻蛉を見送る

豊かな河内平野

濃緑の生駒の山なみ

沸き立つ真っ白な入道雲

一直線に上昇する蜻蛉

少年大地を踏みしめ

己と蜻蛉を

重ねた

わたしの童謡

今夜は寝よう もう寝よう
目には悲しい青い玉
ポロロンポロロンあふれても
笑顔の唇 枕に寄せて
今夜は寝よう もう寝よう

今夜は寝よう もう寝よう
耳には寂しい歌の声
リフテルリフテル響いても
笑顔の唇 枕に寄せて
今夜は寝よう もう寝よう

令和・浪速のこと 美濃吉昭

俳句6首

秋大正のネオ・ルネッサンス公会堂

中之島の二十四橋や月の人

大改造は御堂筋秋シャンゼリゼ

いま都高速むかし水運回廊の秋

そのかみは道頓堀へ屋形船

泣きなはれ笑いなはれと寄席の秋

残照 北口汀子

季節が運んでいるのは

時間? 思い出? 景色?

あゝ、風が吹く

私の心が揺れる

手を伸ばせば届きそうなのに

ORIGIN 来羅ゆら

点から始まる

二つの点を
つなげて線にする
直線という名の傷

ORIGIN
受精卵子の回転の静けさ
母と子の起源
いのちは
道しるべのない
まがりみちを
震えながら歩いてゆく

浮かびあがる遺跡
震えるものたちが見上げると
眩しい光が射して 
傷と
世界は
濡れてかがやく

帯芯のリュックサック 力津耀子

あの時
(終戦の翌年)
母が自分の帯をほどいて縫った
帯芯のリュックサック
おとなもこどもも
背中にせおって出発した
けい子ちゃんやひろ坊の家族も
いっしょだった

足が痛いとぐずると
父が自分のリュックの上に
リュックをせおったわたしを
載せて黙々と進んだ

真夜中の山道を歩き
鉄橋の上を這って渡り
川の浅瀬を探し
道なき道を歩きに歩いて
内地に向かった

あの時の緊迫感は
五歳児の背負っていた
リュックサックの底に
沁みこんで残ったのだろうか
ときどき背中で
重くなったり
軽くなったり

既に八十代の
丸い背中を伸ばしてくれる

再会、遙か彼方で 榊次郎

ボイジャーと同じ年に旅立った里子よ
あれから四十六年
もう きみの面影もぼやけてきたはずなのに
なぜか 途切れ途切れに
ハスキーな声に似た音が聞こえてくる
ひょっとして俺たちの銀河系から遥か離れた
二四〇億キロ先から信号を送ってきているのか

「オーイ次郎 何グズグズしているの
早く ここまでおいでよ」
「ちょっと待っていてくれ そう遠くない日に俺も出発する
その時はダークエネルギーの加速器に乗っていくから
    冥王星あたりで待っていてくれないか」


故 河野里子(詩を朗読する会詩人の会〈風〉創立者のひとり)

湖  高丸もと子

この森の奥に
深い蒼を湛えた湖がある

だれも訪れたことのない
ひっそりとした湖

知らなかった
私の心の奥にその湖があることなど

少しの言ノ葉に触れただけで波立ち
こぼれてしまうことなど

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